賞味期限表示と消費期限表示は日本の消費者が食品を購入する際に一番気にするところです。気にする割には冷蔵庫や納戸で賞味期限切れになっている食品が多いようですがhi。
食品の賞味期限、消費期限、あるいは製造日の印字方法は日本国では年月日あるいは年月でするように定められています。2009年5月15日とか、2010.12.05などが正しい例。
2009/01や、2010 6というのは不可。(詳しくは 厚労省資料)
日本では食品衛生法で賞味期限表示は「不滅インキなどを使用し、消えにくく明瞭に読める」状態になっていることが求められています。しかし、これが結構難問なんですね。
現在、食品容器の日付印字に使用されているものの中で一番古典的なのは、日付ベルトを回転させて日付をつくり、手で一枚一枚押していくゴム判タイプです。今も町のケーキ屋さんなどで見ることができます。
ゴム判も進化してくると連続的に印肉と印字される容器の間を往復して押すものが出てきます。紙などに印字する場合はインクが紙の繊維に染みこむので一度打ったら消えませんが、プラスチックフィルムには乗りにくいという難点があります。
ちなみに左の紙パックのお茶は紙の上にプラスチックフィルムが貼ってあるので、インクが黒々としみこむというわけには行きません。
次に出てきたのが熱転写フィルムというやつで、昔の家庭用ワープロが使っていたインクリボンの親戚です。これは紙にもレトルトパウチのようなプラスチック素材にも使えますし、ゴム版のように摩耗やインキ補充の量による濃淡が出ないので、一時期かなり広がりました。
しかし、これには意外な弱点があり減少傾向です。つまり、PETなどのプラスチックフィルムの上では密着性が低く、爪でこするだけで剥がれてしまうのです。店頭の棚の上でこすれあっただけでも日付が読めなくなってしまう事があり、昨今の小喧しい消費者には許してもらえません。
そこで、1980年代に出てきたのが産業用インクジェットプリンターです。有名どころではドミノ、イマージュ、日本では 日立産機 などです。
原理は同じですが家庭用のインクジェットプリンターを想像してはいけません。印字ヘッドと被印刷物の距離が数センチ離れていても印字できるところが、この方式の凄さです。表面が平らでなくても印字でき、かつ印字能力も高く毎分数百印字できるので、一気に広まりました。これまでの印字方法が1分間に数十印字が関の山だったのですから驚異的な早さです。
インクを霧のように噴射し、これに電界をかけて飛ばしたい方向に自在に微小なインキ粒の飛行軌跡を変化させて印字するので、全て非接触で作業できます。(動作原理は 日立のWeb を参照)
非接触なら速度を上げても対象物とヘッドの衝突による破損が発生しないので、いくらでも高速化できるというわけです。
ただ、インクジェットは印字するものの表面に水や汚れがついていると印字できません。そこで水気対策に、たいていの工場ではドライヤー(エアナイフ)を印字工程前にもっています。
ともあれ、最近最も多い印字方式でしょう。最近ではバーコードやQRを打てる機械も出てきました。
インクジェットプリンターよりも高速でインクが要らないため、ノズルの掃除やインクの補充がなくランニングコストも安いという良いとこづくめの印字方式がレーザー印字機(レーザーマーカー)です。
従来のインクを使う方式が溶剤で拭けば殆ど拭き取れてしまうのに比べ、レーザー光線による焼き付け方式は紙に印字すれば紙が焦げることで明瞭な黒い印字ができ、こすっても落ちません。透明のPETボトルに印字すれば白い印字となり、消費者には見つけられにくい隠しコード(トレーサビリティ用)の印字としても使えます。
特殊な印刷を施した上に印字すればプラスチックでも明瞭な印字ができます。左の写真は灰色のバックグラウンドに印字した例で、印刷インク層をレーザーで蒸発させて白い文字を作っています。紙を焦がして黒くするより早い印字が出来るので最近のレーザー印字はほとんどこれです。
良いところずくめですが、ひとつ重大な問題があるのです。
薄いフィルムに適用すると穴が貫通してしまう ということです。
こうなると密封容器として機能しないので、腐敗細菌の侵入によりレトルト食品は腐敗してしまいます。これを実際にやらかした工場があるんです。
たとえばPET 12μm、ナイロン 25μm、ポリプロピレン 50μmの多層構成レトルトパウチに印字した際、1%未満の確率でしたが印字部分でレーザーが貫通穴を開けてしまいました。そりゃそうです。レーザー光線による印字は被印刷物の表面を蒸発あるいは炭化させる形式です。印字というより「刻印(彫刻)」といったほうが正解な動作で文字を刻みます。
まして、このケースでは透明のレトルトパウチに印字していたため出力を最大に上げていたのです。(昔、小学校の理科で虫眼鏡で太陽光線を集めて紙を焼く実験をやったのを思い出してください。黒く塗った紙はすぐに焼け、白い紙や透明なものはなかなか焼けませんでしたね。)透明なものにはレーザー光がすり抜けてしまうので効果的に熱にならず、読みやすい印字にするためにともかく出力を上げたらしい。
高校の数学・統計の時間を思い出してもらえば分かりますが、なにごとも100を狙って正確に100の結果が出るわけではありません。正規分布のカーブの端の方には1もあれば200もあるというわけで、レーザーによる穴掘り印字をしていれば、「深さ20μmの印字深さ」を狙っていても、バラツキによって予定を遥かに越えフィルムを貫通してしまう製品が確率的に必ず出ます。これは数学的・工学的に「当たり前」のことです。
しかし、どうしてこの工場がレーザー印字機を導入したのか?
レトルトパウチの素材を塩化ビニルフィルムからPETフィルムに変えたため、それまで使っていたインクジェット印字機のインクでは綺麗に乗らなくなってしまったのです。そこで工場長様はインクでなくても印字できるレーザーを導入したわけですが、なにぶん正規分布も知らず、包装容器の知識も無い人でしたので、リスクの評価というものをしなかったというか知らなかったというか。。。。かくして腐ったレトルトパック製品はじゃんじゃん量産され、苦情と不良品の山となりました。
どうにかしてくれと頼まれて私がしたのは何のことは無い、インクジェット業者に電話して「PETに印字できるインクと、そのインク用の印字ヘッド持ってきて!」。これで全て解決。レトルトパウチにはインクジェットが最適です。
しかし、レーザー印字が穴を開けて腐った製品が保管された製品倉庫は、製品があっちこっちで爆発して、ハエは出るし、ネズミは走るしで、大変な状態でした。たいていPGJが直しに行くのはこういう酷い工場ですが、その工場長様にはお引き取りを願ったのは言うまでもありません。