話の種

回収! やれやれ。。

充填機かねぇ?

いま、(2006年5月現在)コカコーラが商品回収をしています。
昔の同僚が勤めていたりするので、「あー気の毒ー」と同情しております。
(日本コカコーラは味の素と並んで食品業界の技術者がいっぺん勤めてみたい会社のトップにランクされております。 私も何度受けて落ちたことか。。。)

詳細は省きますが、「健康に影響の無い微細な鉄粉が混入」したらしいです。
うらやましいですね「健康に影響の無い微細な鉄粉」と言い切れるところが。 まぁ芋や大根などの根菜は砂が付いてて当たり前で怒られないからね。 
うーむ、食品業界はある意味「気楽」でいいねぇ。 (実は食品業界は、たまにこういう回収があって製薬業と同じくらい気楽でない仕事であるのだ。。。)

回収対象になった商品は、
「クーとってもオレンジ」、「アクエリアス」、「コカコーラ」、「ファンタオレンジ」など、中身は液体のみという製品です。
通常、こういう液体ばかりの製品は非常に細かいメッシュフィルターを使い異物を取り除きます。  これが粒粒入りオレンジジュースなどになると、メッシュ を粗くしないと詰まってしまうので、結構色々入って欲しくない物が入る可能性が高くなります。 どちらにせよ鉄などの磁性金属には希土類強力磁石を使った トラップを配管のあちこちに仕掛けて微細鉄粉でさえ吸着してしまいます。 

では、なんで、鉄粉が。。。。
単純に考えると、充填機でしょうかね。 充填機はかなりのスピードで回転しながら空容器を取り込み、中身を詰め、キャップをし、ラベル巻きラインに排出するという一連の動作をする機械で、ベアリングで回転させる高速運転部分と、ブッシングで押さえている低速度部分があります。 このほかにわずかな隙間で離 れている機械部分がいろいろありまして、そのうちのどれかが調整不良や変形を起こすと、金属同士が擦れあって金属粉が出ますね。
充填機でこういう事がおきると、やっかいです。 なにしろ異物除去するまもなくブツは最終製品の中へ入ってしまいますから。

私の経験でも、ネジやパッキンやオーリングなどの充填機の部品が最終製品から出てきて、お客さんから「あきれ果て」られた事もありまして。 あぁぁぁ
食品工業の失敗学でも書きましたが、充填機は異物以外にも色々と災難を起こす機械ではあります。

当該製品の賞味期間

で、これらの製品は、2006年の3月26日から30日にかけて製造されたそうです。
しかし、賞味期限は以下のように違いがあります。

製品

賞味期限

賞味期間  

クーとってもオレンジ  500mlPET

2006年11月20日/21日

8ヶ月

アクエリアス 2LPET

2007年1月20日 

0ヶ月

コカ・コーラ1.5LPET 
ダイエット コカ・コーラ1.5LPET

2006年9月24日 

6ヶ月

ファンタ オレンジ1.5LPET
ファンタ グレープ1.5LPET

2006年9月25日

6ヶ月


上の表の黒字の部分は日本コカコーラの発表した賞味期限で、緑の字はそこから数えた賞味期間です。
どれもPETボトル入りですが賞味期間が違いますね。
赤文字の4種類は炭酸飲料ですね。 炭酸飲料は炭酸ガスがPETボトルの表面から抜け出てしまうから、「抜け出してもなんとか美味しく飲むことができる限 度」を考慮して賞味期間が半年なのでしょう。  color="#ff8040"

クー とってもオレンジ

が8ヶ月なのは、炭酸飲料のようにガス抜けの心配はしなくて良いけれど、オレンジの香りが長持ちしないので8ヶ月が限度ということなのでしょう。

アクエリアス

は香りも強くないし炭酸飲料でもないので一番長い10ヶ月という訳なのでしょう。 
ここいらの話の詳しいことは コチラに書いてあります

さて、工場では26日から30日まで、と区切って「問題の製品群」と判断できたのでしょうか?
まっとうな工場では残すべき記録が明確にされています。
製造している瞬間の品質管理には役立たなくても、過去を振り返って確認するための記録です。 素人さんは品質管理というと目の前を流れている製品をにらん でいることだと思っているいますが、それだけではないのですよ。 この場合もおそらく、充填機などの機械の調整整備記録を点検して決定したのでしょう。 
「鉄粉が入っている」という苦情を受けて、その製品がたとえば28日製造で、工場で原因を探してみると、どうも怪しい工程がある。 その機械の整備記録を見たら26日の記録には異常が無くて、30日の記録に「微調整」などと書いてあると、「この間に微妙に擦れによる金属粉発生が起きていたかもなぁ」と、想像するのが工場の技術屋さん。

別に他の日製造の製品を開けまくって調べるわけではない。 だいたい、そんな検査でわかるくらいなら工場出荷前に当該製品を出荷止めにしていますよ。
よく居るんだよねぇ。 他の製品は調べたのか? と聞いてくるスーパーの購買担当さん。 「無意味だからやりません」というとブチ切れてしまってねぇ。 

天下のコカコーラですもの、そこいら辺の記録に不備があるわけも無いでしょうから、あっという間に「これだろうなぁ」という場所や期間は特定できたので しょう。
もし記録をとっていないと。。。 その回収量はすさまじく増えます。 詳しくは次の項で。

「製品のトレーサビリティーの為の印字」の種類

製品にとんでもない不良があった場合、「回収」は避けられない選択です。
  食品の回収の実例は こちら
  医薬品などの回収の実例は こちら

そんなとき、回収しなくてはいけない部分はぜひ回収したいけれど、回収しなくて良い部分まで市場から引っこ抜いてしまうと、その製品を必要としている人に 迷惑がかかりますから、回収は必要最小限にしなくてはいけません。 そこで重要なのが「いかに細かい(精度の高い)トレーサビリティーを持っているか?」 です。
今回のコカコーラの一件を例にしてみましょう。

賞味期限/製造所固有記号(キャップに記載)  061120/MSI

2つ以上の工場を持っている食品会社が製品を売る場合、もしくはよその会社に委託生産した製 品を自社の商標で売る場合には「製造所固有記号」をつけないといけません。
今回の場合コカ・コーラナショナルビバレッジ株式会社が三笠コカ・コーラボトリング株式会社に委託製造している製品だったのでしょう。
正式には
  コカ・コーラナショナルビバレッジ株式会社MSI

と記さなくてはいけませんが、容 器の印刷の面に正確に印字することは不可能なので、賞味期限表示の隣などの「別の場所に打ってもいいよ」という例外規定もあります。 

右のように、「固有記号は別の場所に打ってあるよ」宣言しなくてはいけませんけれどね。

で、これがあれば、たとえば同じ製品を複数の工場で作っていても、製造所固有記号を使って、「○○工場製の△△ジュース」だけ回収!ということができま す。
別の意味もあるのだけど、それは省略。

 



 

さて、このほかにロット番号を打っている製品もあります。  
こちらは、キャンベルのトマトジュース。

一括表示欄に、
「賞味期限の上段左は製造所固有記号」
と書いてあるから右の131Fはロット番号なのでしょう。 
工場の人が見れば、何番の混合タンクから何号充填機を通って殺菌工程に何時ころ回ったかわかる仕組みです。

ちなみに、「左に製造所固有記号」と表示しておいて間違えて右に印字したりすると。。。。。
それで製品を出荷止めにしたことがあったなぁ。。。(遠い目)hi


いつだったか、どこかの飲料で、「賞味期限○月X日製造番号12:34から12:36を回収」という広告がありましたが、悪いところを突き止められたら回 収するものを数分間の分だけで済ませることができる例もあります。
  
わずかな文面の回収告知ですが、食品技術者の苦労が詰まった話の種になりますね。

追伸:この話は日本コカコーラ社のwebの情報を元に私の経験を混ぜて膨らませたものです。 本当の原因は違うかもしれません。 違うでしょうね。たぶん hi。


と、まぁ、ここまでは5月2日時点での情報をもとに書きましたが、今日5月10日、コカコーラ様は総数約170万本20万ケースの大回収を発表しま した。

案の定、私の予想とは大違いで、私の同僚の品質エンジニア曰く、「普通あんなもの壊れないよなぁ」という糖度、CO2濃度分析用のオンラインプローブの破 損が原因だったそうです。
私の職場(某社の品質保証部)では、日本コカコーラの技術陣への同情の声しきりでした。

かくのごとく、私の読みは外れましたが、事故と言うものは原因を見つけるのが大変で本当に訳がわからんものなのです。

しかし、「オンラインセンサーのプローブが壊れたのなら、計測データが異常を示すはずだからラインがすぐ停止したはず」とは某飲料会社に勤めた経験のある 同僚。 おそらく、配管に使っていないプローブがあったのでしょうね(予備用とか、撤去が難しいから放置してあったとか)、で、それが壊れて、使っていな いから気づかなくて。。。。 なんていうストーリーかも。
でも普通、マグネチックトラップで止まるはずなのだけど。。。

まさか充填機直前にメッシュや磁気トラップを仕掛けていなかったのだろうかねぇ。

この回収の原因となった苦情は出荷100万本あたり数本だったでしょう。 それでも回収になる。
私の缶詰業界にいた時分の標準は出荷1万個あたり1個の苦情が出たら回収。
ところが八百屋さん業界は、出荷1万個あたり100個苦情が出ても平気の平左。

業界ごとに違う標準に驚いたものです。

スーパーマーケットでも青果生鮮担当のバイヤーさんと、加工食品担当のバイヤーさんでは知識や勉強のレベルがまるっきり違います。
当然前者が悪い。 というわけで、そういう勉強嫌いなバイヤーさんがこういう売りかたで食品を変質させながら販売するわけです。

ホームに戻る 話の種の見出しへ戻る (c) ZL2PGJ 2004-2006使用条件