か–ん

EZOEとかEOEとか呼ばれていますが、日本の消費者が言うところの「パッカン」、缶切りを使わず開けられる缶詰の蓋のこと。 イージーオープンエンドと呼ばれています。
あれは缶蓋にスコアと呼ばれる切れ目が入っているから人間の手で金属が裂けるようになっているのです。 その切れ込みの「残り厚み」というような部分をスコアレシデュアル(score residual)と呼びます。 0.1mm前後の薄いものです。 でなけりゃ手で開きません。
     
さて、この部分は0.1mm前後の金属ですから、実は本当に脆いものです。 特に90年代のアルミイージーオープンエンド投入初期の製品はどこの食品メーカーも大変だったでしょうねぇ。
缶を落下させると見た目に傷がなくても「スコア割れ」が起きて、そこから密封が壊れ、「開けてみたら中が腐っていた」なんて苦情が年数百件あったもんです。
「今日は2個、昨日は4個」みたいな有様でした。 それでも発生率はppmで語れるほどの生産量なのだから、缶詰産業のロットのでかさではあります。
これも、導入直後に営業から「こうしょっちゅうスコア割れしてはかなわん」ということで、製缶業者に缶蓋強化を求めて「よし!4月から!」と決めたのですが。
阿呆な営業部隊が年度末に押し込みセールスを仕掛けて5ヶ月分の製品を問屋に納品してしまった。当然改良前の蓋で。。。
結局、改良イージーオープンエンドが出荷されたのは9月。
今では考えられませんが、押し込み営業なんてあったんですなぁ。
「押し込み」は
- 工場は急な残業になる。
- 決算期を過ぎたら大量返品で保管倉庫を急遽借りなきゃいかん。
- 問屋に無理を聞いてもらうので、しなくてもいい値引きを嫌でもすることになる
不良在庫は増える固定費は上がる利益率は下がる。 百害あって一利なし。
さて、なんだかんだで強化され開けやすさも改良された21世紀のイージーオープンエンドですが、ここまでしたら、そりゃ無理です。 というのが下の写真。
     
「お! 面白い缶詰がある!」と買ってきたのですが、車から降ろす際に敷石の上に落としまして、緑の鯖缶は丈夫なスチールイージーオープンエンドですが、いくらなんでも「ここまでやったらスコア割れてる」レベルです。
一見、真空が取れているように見えますが「スローリーケージ」と言いましてゆっくり漏れますので2週間もすると腐れ出すのは缶詰屋の常識。
右のほていのやきとり缶は丈夫で安全なタニケイエンドもどきですが、ここまで潰れていたらだめだろ。
     
というわけで、この日の晩は急遽缶詰ナイトになりました。 ヤレヤレ
本物のタニケイエンドは開缶後の切り口が缶開口部の内側に出ず手を切りにくいという素晴らしい缶蓋です。 さらにその構造上スコア強度が増すという長所があります。
下の図はこの鯖缶の蓋のスコア部分断面。
     
まぁ、USで出回っている硬い缶材で、こういう凝った缶蓋を作ると缶蓋製造時の圧延工程で割れるという頭の痛いことが起きましてですね。。。 導入当初は缶工場の6シグマがボロボロでひどい目にあった。。
缶詰の缶はある程度焼き鈍した鋼材が良いのですが、焼き鈍した缶材は凹みやすい。 それを嫌って硬い缶材で作るのが当時のW(米合衆国)では普通でした。
硬いと開きにくい。 開きにくいといきなり開いて反動で手を切る。 と言うのは普通のイージーオープンエンドの場合。 これで通商産業省(当時)の製品安全課に呼び出されたことがありましたなぁ。
「自動車用高張力鋼板の輸出に際して米国通商代表部からダンピングだと言われるので、日本の製鉄各社はあえて高い値で輸出している。ただしオマケでタダ同然の値段でこの缶材を抱き合わせで出しているそうで、米国側ではこの缶材を別途売って、その差益で自動車用抗張力鋼板を安く利用しているそうです。 そんなトリックをどこが指導したか知りませんが、あとはお察しください。 当然、製品安全上の改良はいたします。」
と言って逃げ帰ってきたもんです。 今は昔。
缶詰の缶の作り方 日本製缶協会
http://www.seikan-kyoukai.jp/process/index.html
素人に分かるのかねこの内容で。。。

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