その昔、電気コーヒー沸し器(カナ送りがおかしい? これ、法で定められた単語です。)の輸入製品法規をやっておりまして、いろいろ家電製品について学びました。 なにしろ電気と電波の基礎はアマチュア無線の知識しかなかったのですから、手探り状態。
とはいえ電波は社内で「ソウシンキケイトウズ」と言われてわかる人が他に居なかったので、そっち方面の「できる人」になれました。 アマチュア無線で稼いだ数少ない例ですな。
なんだかんだ 電気製品法規の手探りの中で、一番参考になったのが他社の失敗録。 その昔は経済産業省の製品安全課のページに試買試験の結果というのがメーカー名付きで毎年公開されておりました。 (今は市場対応した製品以外はメーカー名は出さなくなりました。 結構国内御三家大手も載っていたので、業界からの「お願い」でもあったんですかね。)
https://www.meti.go.jp/policy/consumer/seian/denan/after_distribution.html
令和元年度分までは、メーカー名非公開ですが毎年更新されていました。 PGJはこれを見ながら「げ!発売予定製品が基準改正に対応してないじゃん。」なーんてのを見つけておりました。(時効) 最近のは公開遅れ気味ですね。
まぁともあれそうやって学んできました。 思えば食品屋から電器屋になって十数年だ。
で、上記で紹介されているような失敗の数々は何故起きるかというと? というのを業界筋では有名なJETさんが以下で解説しています。
https://www.jet.or.jp/common/data/new/semi2019_2.pdf
「アルアル」な輸入家電の失敗 ではあります。
大きな原因の一つが電源仕様の差異。 一般消費者は電源プラグの形が違うくらいしか知らんですが、実は大変な代物です。
JA(日本)とP5(北朝鮮)の電源事情が世界から隔絶しています(アース無し100V 無極性2線式)。 HL(大韓民国)は朴正煕大統領が日本から取ってきた資金で電源を世界標準(アース付き220V+ 3線式)に替えたので無問題。 漢江の奇跡には電源改善も入っていたわけです。
米国プラグは2枚刃もありますが、よく見ると左右の歯の幅が違うでしょ(有極性2線式)。 台湾が米国式なのはいつからなんでしょ? 国民党以降かね?
「電源方式が違う=安全設計の基礎がまるで違う」のです。 かくして輸入家電が次々とアウトになるわけです。 「変換アダプター付けたらOK」と思っている人って家電メーカーの営業にも普通にいましたが、それは違います。
私が知る限りでも昇圧降圧トランスを使わず、プラグ変換アダプターで電気器具を商用電源(壁のコンセントという意味)につなげて、いきなり全損というのは数え切れません。
電源方式の他に、日本は「雨がやたら降る、漏電遮断器が普通にある、家が狭い、木と紙の家である」というような前提があるため、IECの家電安全基準に日本特有の要求をJISで足しているのですが、アホが輸入する家電は、その差異(Japan national differnece)の試験をしていないのでJIS不適合に気づかず、いきなりアウト(電安法不適合)になるわけです。
欧州向けの家電品は「漏電してもアースで逃がすから良いや」な設計なので、漏電してないけど普通に金属筐体に電流モレモレってありますよ。
日本の大手家電メーカーでもOEMどころかOEDで、日本の開発や製品法規担当が知らないうちに営業部隊が輸入販売してアウト! というのが続発しているようです。 (それもあって試買結果が匿名になったかね?)
という訳で電気用品を輸入したかったら
こちらを読んで
https://www.meti.go.jp/policy/consumer/seian/denan/pse_guide.html
字が苦手な人はこっち https://s3.amazonaws.com/JP_AM/su/390.pdf
わからないことは ここで聞くと良いでしょう(有料)
最低限この2冊を持っているとわかりが早いです。 技術基準解説 関係法令集
そもそも電気用品の並行輸入なんて無理。 正規メーカーが安全設計情報などを並行業者に渡すわけないでしょ。 hi 情報を持っていない = 電気用品安全法第八条違反
ところで、新規家電輸入業者が製品法規担当者を採用しようとするときにex大手家電を採用しようとしますが、これは率直に申し上げて「無駄」です。 製品法規も電安法だけではないですし、電波法、電気通信事業法、資源リサイクル法、省エネ法、国連輸送基準、危険物取締法、消防法、薬機法、公取法、関税法、外為法、などなど。 そもそも国内大手さんは分業が激しすぎて、製品を丸ごと見ることができる人が居ません。 社内設計指針なるものを作って法令や工業基準とは無関係に製品を作っているので、実はIECもJISも上の本も超限られた人しか知りません(逆にそういう人は工業を知らない)。 という訳で、日本国内の従業員数が1000人に満たない会社さんの場合、製品法規の社内需要があるならゼロから育てたほうが良いですよ。
記事の画像はJETの資料より